生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本の話

ある人が亡くなると相続が発生します。法定相続人とは亡くなった人(被相続人ともいいます)の財産を相続することのできる資格を有する人のことです。ここでは単に相続人と呼ぶことにします。

そして、誰が相続人になるのかというと、以下の通りです。

  • 亡くなった人の配偶者は常に相続人

  • 亡くなった人に子がいれば配偶者と子

  • 子が既に亡くなっていれば孫、孫も亡くなっていれば曾孫

  • 亡くなった人に子や孫等がいなければ配偶者と亡くなった人の直系尊属(父母、父母が既に亡くなっていれば祖父母)

  • 亡くなった人に子や孫等もおらず直系尊属もいなければ配偶者と兄弟姉妹

結構、ややこしいでしょう。正月とお盆に親族一同が本家である実家に大挙して集まる古き良き時代ならいざしらず、親戚づきあいが希薄になった今日ではそう簡単には分からないことが多いのです。

高齢化社会となり90歳どころか100歳という大台を超えて長生きされる方も珍しくない今日この頃です。かなりの高齢で亡くなった人の場合、その相続人もそれなりの高齢となり、親戚付き合いもしなくなっている場合が多いのです。

そのため、生涯独身をつらぬいた金満家の兄や姉が年老いて亡くなり、弟や妹で遺産を山分けできると期待に胸膨らませて(?)いたところ、独身と思っていた兄や姉がまさかの熟年婚をして配偶者がおり遺産の4分の3が配偶者のものになってしまうケースや、親しい女性との間に秘かに子どもをもうけて認知していたため兄弟姉妹が1円も相続できなかったケースも実際の遺産争いで少なからず見てきております。

例えば、次のようなケースです。


田中家の長女イツ子さんは、その時代には珍しい女性起業家で、多くの財産を築きました。しかし、仕事にまい進するあまり、結婚もせず、生涯独り身を貫いたと思われていました。

そんなイツ子さんが80歳を過ぎ、ついに他界しました。弟や妹たちは、姉の遺産を自分たちで平等に分けられると期待していました。ところが、イツ子さんの除籍謄本を見ると驚くべき事実が明らかになりました。実は、イツ子さんは数年前に密かに結婚しており、配偶者がいたのです。

法律に基づき、イツ子さんの遺産の4分の3が配偶者のものとなることが確定しました。弟や妹たちは、期待していた遺産が大幅に減る結果となり、驚きと失望を隠せませんでした。彼らは、姉が長年隠し続けた結婚という事実に、驚きつつもその事実を受け入れるしかありませんでした。


いかがですか。結婚の事実を知らないなんてあり得ないと思うかもしれません。しかし、かなりお年を召されてからの結婚は、周囲から反対を受けることも多く、そもそも関係が疎遠な場合はとくに報告すら受けないこともあります。

また、こんなケースもあります。


鈴木家の長男、タケシさんは、生涯独身を貫いたと周囲に思われていました。彼は成功した投資家で、多額の財産を築き、その豊かな生活ぶりは親戚や友人の間でも有名でした。結婚こそしていませんでしたが、若いころは相当遊んでいたようです。

タケシさんが90歳を迎え、穏やかに亡くなった時、弟や妹たちは彼の遺産が自分たちに分配されると期待していました。

しかし、遺産相続の手続きを進める中で、驚くべき事実が発覚しました。実はタケシさんは、長年親しい女性との間に子どもをもうけており、その子どもを正式に認知していたのです。この子どもが法的な相続人として、タケシさんの全財産を相続することが明らかになりました。

弟や妹たちは、タケシさんが一生独身であったと信じていたため、この事実に大きなショックを受けました。期待していた遺産が全く手に入らないという現実に直面し、彼らは驚きと失望を隠せませんでした。


ここでいえることは亡くなった人の親族は遺産について不謹慎な期待を抱かず、しめやかに亡くなった人を偲び、早急に亡くなった人の親族に誰がいるかを明らかにすることです。

その方法はただ一つ、亡くなった人の生まれてから亡くなるまでの連続した戸籍簿や除籍簿の謄本(ここでは単に戸籍謄本といいます)を市区町村役場の窓口で取得することです。

高齢で亡くなった人に子や孫等がいなければ亡くなった人の両親の生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本を取得する必要があります。

そして、戦後の新しい民法の下での家制度の廃止による戸籍の改製や結婚等による本籍地の変更などにより、生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本は複数存在するのが通常です。

これまでは亡くなった人の本籍地の変遷を調べて、過去の本籍地の市区町村役場の窓口にも戸籍謄本の交付申請をしなければならず、仕事で多忙な相続人や年老いて事務作業に難儀するようになった相続人の中には、この段階で相続手続きを挫折する方も少なからずおりました。

しかし、ご安心ください。今やIT化の時代、戸籍事務のコンピューターシステムのネットワーク化が完成し、今年(令和6年)3月1日から亡くなった人の配偶者、直系尊属、直系卑属(子や孫等のことです)は最寄りの市区町村役場の窓口で亡くなった人の生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本のすべてを請求することが可能となりました。

ただ住民票のように役場の窓口で請求すれば直ちに交付してもらえることはなく、まあまあの時間(場合によっては数日)かかり、後日戸籍謄本を役場に取りに行くこともあります。

遺産相続のファーストステップは戸籍謄本の取得から始まりますが、そこから既にハードルが高い方もいるかもしれません。また、戸籍を取得したところ、見知らぬ相続人が出てきて、遺産分割が進まない方もおられるかもしれません。

当センターでは、遺産分割協議書の作成や、相続の話し合いのサポート(ADR)もお手伝いできますので、お困りの方はぜひご相談ください。